抄録
【目的】放射線の卵巣への早期影響については種々の報告がなされている。原爆被爆者において、澤田は遠距離被爆者に比べ近距離被爆者に被爆直後閉経者が多数みとめられたこと、その平均閉経年齢が対照群に比べ、殊に急性放射線症状有症状群で有意に若い傾向が見られたことを報告しているが、急性放射線症状という重篤な全身症状が閉経年齢の低下へ与える影響を無視できないと結んでいる。そこで、被曝後数十年を経てからの閉経においても、この様な被曝線量増加に伴う閉経年齢の低下が見られるかを放射線影響研究所寿命調査対象者について検討した。【方法】当研究所では、追跡調査を行っている寿命調査集団女性を対象とした郵便調査を現在までに1969年、1978年、1991年の3回行っている。それぞれの調査に初潮年齢、出産歴、閉経年齢等が質問項目として含まれており、被曝線量情報が得られている対象者のうち約18,000人がいずれかの調査で閉経年齢を回答している。被爆時に10歳であった者も1991年調査時には56歳に達しており、被爆時に初潮を迎えていた対象者は、そのほとんどが閉経を迎えていると考えられる。被曝時に既に初潮を迎えていた対象者と、初潮前であった対象者では、放射線被曝と閉経年齢との関連が異なると考えられる為、解析は、初潮後被曝群と初潮前被曝群の2群に分け、閉経年齢に関連すると考えられる因子、出生コホート、出産経験の有無等を考慮して行った。【結果】初潮後被曝群において、被曝線量の増加に伴い、閉経年齢が有意に早くなる関連が認められた。初潮前被曝群においても、初潮後被曝群と同様に閉経年齢が早まる関連が見られたが、その差は有意ではなかった。これは初潮前被曝群においては、閉経年齢が得られている対象者が少なく、被曝線量が1.5Gy以上の対象者が8名と少なかった為とも考えられる。