抄録
【目的】被爆者の急性症状に関する情報は二度と得られない貴重な情報である。しかし、被爆者自身の申告によるものであるため情報の正確さが問題となる場合がある。被爆直後の1945年9月から1946年に行われた日米合同調査団による調査結果と1960年から1965年の被爆者調査の結果との一致の程度を調べることにより急性症状に関する情報の確かさを検討することを目的とした。
【対象と方法】被爆直後の日米合同調査団による長崎の調査対象 6,621人のうち、性別、調査時年齢、被爆場所の記載があった 4,798人と1960年から1965年に被爆者手帳を取得し急性症状の情報があった16,403人とを照合し、同定できた 627人(男350人, 女277人)を対象とした。被爆直後の調査結果(調査A)と被爆後15年以降の調査結果(調査B)について、調査Aで症状ありと回答した人のうち、調査Bでも症状ありと回答した人の割合(症状ありの一致割合)と調査Aで症状なしと回答した人のうち、調査Bでも症状なしと回答した人の割合(症状なしの一致割合)を調べた。また、症状のうち脱毛については症状の程度を考慮した場合についても調べた。
【結果と考察】調査Aと調査Bでの急性症状の有症割合はそれぞれ、下痢が35%と32%、嘔吐が28%と20%、発熱が22%と30%、口内炎が20%と13%、脱毛が14%と23%、歯茎血が12%と18%、皮下出血が12%と16%、鼻出血が3%と9%であった。各症状について症状ありの一致割合が最も高かったのは脱毛(74%)であった。逆に症状なしの一致割合が高かったのは口内炎(93%)、皮下出血(91%)、鼻出血(92%)であった。また、脱毛の程度が頭髪の半分以下のものを症状なしとした場合は症状ありの一致割合は50%、症状なしの一致割合は92%であった。