抄録
プルトニウム同位体(Pu-238,Pu-239,240,Pu-241,以下Pu)を含む広範囲な土壌汚染・水系汚染を生じたのがチェルノブイリ事故である。そこで、本研究では事故地域においてPuの挙動を系統的に把握し、この知見を他の地域におけるPuの挙動の理解に役立てることを目的とした。【結果と考察】チェルノブイリ発電所近傍の土壌・水中懸濁物・堆積物・河川水・湖沼水について事故起因のPuの濃度と物理的・化学的存在形態を調べた結果、土壌から表面水への移動率は、同じく事故起因のCs-137、Sr-90と比較してPuが最も小さいことが示唆された。発電所周辺の高度に汚染した地域の土壌から、縦貫するプリピァチ川への事故起因Puの年間移動率は最大で約0.1%(1986年、事故発生年)であり、その後は約0.01%(2000年)まで低減したと推定される。Puの化学的存在相に関しては、土壌及び河川水と湖沼水の懸濁物では、有機物相並びに難溶解相(粘土鉱物等)に大部分が見いだされた。このことは、土壌における難移動性、水中における難溶解性を意味している。事故発電所下流20 kmのプリピァチ川堆積物でもPuは難溶解相に集中的に存在し、Sr-90と対照的であった。Puが事故地域近傍の河川水により運ばれる物理的な形態は、60-80%が懸濁物に含まれた粒子態、10-20%がコロイド態、10-20%が低分子量の溶存成分であることが見いだされた。この相分配は、施設起因のPuについてローヌ川等で得られた結果と良く一致している。【まとめ】以上から、チェルノブイリ地域の環境におけるPuの挙動は次のようにまとめられる。i) 土壌から河川への移動は小さいが継続的である、ii) 土壌から河川への移動は土壌粒子の流失や有機コロイドでの可溶化による。また、 水中のPuの生物取り込みに関しては低分子量成分の役割が注目される。