抄録
生体内因子による突然変異はDNA損傷だけでなく損傷ヌクレオチドにも起因する。8-oxodGTPや2-OHdATPなどの酸化ヌクレオチドは強い突然変異誘発性をもつため,生物はそれらに対する浄化機構をもつ。大腸菌のMutTやバックアップ機能を担うRibAやマウス,ヒトのMTH1(NUDT1)などが知られている。また損傷ヌクレオチドは,酸化によるものばかりではなく,細胞内の生理的条件で生じる脱アミノ化を受けたdUTP,dITP,dXTPなどの損傷ヌクレオチドも重要であると考えられる。事実dUTPの分解酵素が既に,大腸菌,酵母,マウス,ヒトで確認されている。しかしdITPやdXTPについては,DNA中の塩基の脱アミノ化が自然突然変異の原因となることが知られているものの,脱アミノ化ヌクレオチドのDNAへの取り込みや自然突然変異への寄与については不明である。
我々は酵母のヌクレオチド損傷浄化機構とそのゲノム安定化への寄与を明らかにする目的で,8-oxodGTPaseとITPaseの機能的ホモログを検索し,前者としてYLR151c(PCD1)を,後者としてHAM1を分離同定した。Ylr151c(Pcd1)については,1) Ylr151cタンパク質の8-oxodGTPと2-OHdATPに対するpyrophosphatase活性,2)大腸菌MutT欠損の相補, 3)酵母破壊株でのmutator phenotypeを,一方Ham1については,1) Ham1タンパク質のdITPに対するpyrophosphatase活性, 2) 2倍体酵母でのHAM1破壊による高頻度の遺伝子転換/相同染色体間交叉誘発を確認した。以上の結果は,酵母において,生理条件での酸化や脱アミノ化によるヌクレオチド損傷が生じることやその浄化機構がゲノム安定化に寄与することを示唆している。