抄録
放射線によって生成した活性酸素によりDNA 前駆体 (ヌクレオチド) に化学的修飾が生じ、損傷 DNA 前駆体が生じる。損傷 DNA 前駆体は DNA 中に取り込まれた後、DNA 修復酵素により除去される可能性が考えられる。本研究では、DNA 修復酵素の一つであるヌクレオチド除去修復酵素 UvrABC が、in vivo において酸化ヌクレオチドにより誘発される変異の抑制に関与しているのか検討した。
uvrA、uvrB 欠損大腸菌に酸化ヌクレオチド 8-hydroxy-dGTP、2-hydroxy-dATP を直接添加して取り込ませ、抗生物質リファンピシン耐性獲得を指標として、rpoB 変異体率を算出した。uvrA、uvrB 欠損大腸菌においては、野生型と異なり、変異体率の上昇が観察されなかった。次に、mutT/uvrA、mutT/uvrB 二重欠損大腸菌に過酸化水素による酸化ストレスを負荷し、変異体率を算出した。mutT 欠損大腸菌においては過酸化水素により変異体率は上昇したが、二重欠損大腸菌においてその上昇は 1/2 から 1/3 に低下した。以上のことから、UvrA や UvrB 蛋白質が酸化ヌクレオチドによる変異の抑制ではなく、むしろ固定に関与している可能性が示唆された。そこで、UvrABC 蛋白質が酸化ヌクレオチドの取り込まれた損傷鎖ではなく、その相補鎖を切断して変異を固定しているという仮説をたて、精製 Thermus thermophilus HB8 UvrABC 蛋白質を用いて8-hydroxyguanine や 2-hydroxyadenine を含む DNA の切断活性を評価したが、切断活性は観察されなかった。UvrABC 蛋白質は別のメカニズムにより固定していると考えられる。