日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第49回大会
セッションID: WS3-6
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損傷ヌクレオチドによる遺伝情報不安定性誘発とその制御
哺乳動物における酸化損傷ヌクレオチドによる突然変異とその抑制
*中津 可道
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キーワード: MTH1, 8-oxo-dGTP, Nudix hydrolase
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抄録
DNAやその基質であるヌクレオチドは、環境中に存在する種々の化学物質や電離放射線あるいは生体内での通常の代謝過程で生じる活性酸素により絶えず損傷を受けている。これらのDNA・基質ヌクレオチドの酸化損傷は、複製エラーと共に自然突然変異を引き起こす主な原因と考えられている。ヌクレオチドの酸化により生じる8-oxo-dGTPは、DNA複製の際に鋳型鎖上のシトシンだけでなくアデニンに対しても同じ効率で取り込まれる。鋳型鎖のアデニンと誤対合した8-oxoguanineは、次の複製でシトシンと対合しA:T→C:Gトランスバージョンを、鋳型のシトシンと対合した8-oxoguanineは2回の複製を経てG:C→T:Aトランスバージョンを引き起こす。生物は酸化ヌクレオチドによる突然変異の生起を回避するための防御機構を備えている。大腸菌MutT蛋白質は、8-oxo-dGTPとその前駆体である8-oxo-dGDPを8-oxo-dGMPに加水分解する酵素活性をもち、変異原性ヌクレオチドがDNA複製過程で取り込まれる前に分解することにより突然変異を抑制している。哺乳動物にはMutT蛋白質と同様な酵素活性を持つNUDT蛋白質が複数存在する。MTH1(NUDT1), NUDT15は、8-oxo-dGTPを、NUDT5は8-oxo-dGDPをそれぞれ8-oxo-dGMPに加水分解する。哺乳動物では、これらの酵素の働きによりヌクレオチドの酸化により生起する突然変異を抑制していると考えられる。ここでは、MTH1欠損マウスを用いた研究成果を紹介し、その欠損が突然変異の生起や生理状態での発がんに及ぼす影響について考察すると共に、哺乳動物のヌクレオチドレベルでの酸化損傷排除機構について議論する。
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© 2006 日本放射線影響学会
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