抄録
【目的】放射光の臨床応用として注目されているMicrobeam Radiation Therapy (MRT)は、50-120keVの白色X線を200μm程度の間隔に並んだ幅20μm程度のスリット状のコリメータを通してがん組織に照射する方法である。その特徴としてがん細胞だけが死滅し,周辺の正常細胞は損傷を受けないとする報告がされている。メカニズムについてはほとんどわかっていないが、X線を照射された領域と照射されない領域が交互に並ぶ照射条件からバイスタンダー効果の関与が示唆される。本年は、放射光X線マイクロビームによる正常細胞とがん細胞の致死効果に対する応答の違いを報告する。
【実験方法】ヒト皮膚由来の正常細胞とヒトメラノーマ由来のがん細胞株を用いた。放射光X線マイクロビームの照射はSPring-8のBL28B2で行った。白色光をスリット幅25μmのコリメータ(スリットピッチ200μm) によってマイクロビーム化した。コロニー形成法による細胞致死効果とリン酸化ヒストンH2AXのフォーカス形成を指標にして、マイクロビームの照射痕・バイスタンダー効果によるDNA損傷の空間的広がりを観察した。
【結果】(1)マイクロビームが照射された細胞全面積(10%)に対して、正常及びがん細胞の細胞生存率は90%生存率でレベルオフすることが無く、指数関数的に減少した。(2)正常細胞では、細胞間情報伝達を阻害した場合の細胞生存率が、阻害しなかった場合に対して低くなった。(3)一方がん細胞では、正常細胞で観察された細胞間情報伝達に依存する細胞生存率の差がなかった。
以上の結果から、直接照射以外の原因で細胞致死が生じていることがわかる。さらに生じた細胞致死に対して、正常細胞ではギャップジャンクションを介した細胞間情報伝達機構が密接に関連したメカニズムによって、照射された細胞の致死効果が回復されたことが示唆される。