日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第49回大会
セッションID: WS8-7
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マイクロビームを用いた研究の進展
カイコ孵化幼虫真皮細胞への重イオンマイクロビーム照射によるコブ突然変異()の発現抑制
*深本 花菜佐方 敏之白井 孝治坂下 哲哉舟山 知夫和田 成一浜田 信行柿崎 竹彦原 孝光鈴木 芳代小林 泰彦木口 憲爾
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抄録
 比較的大型な完全変態昆虫であるカイコは、発生および細胞分化を研究する上で極めて興味深く、実験室内での飼育・経代が容易な実験材料である。幼虫斑紋や形態を中心とした約 400 系統の突然変異の一つであるコブ突然変異(K)は幼虫背面の斑紋が瘤状に突出する。昆虫の皮膚を構成する真皮細胞は一層の細胞からなり、哺乳類で見られるような皮膚の多層性は認められていない。現在、コブの主な原因は真皮細胞が異常分裂して局所的に多層になるためと考えられるが、コブ形質に関わる遺伝子の発現がいつどこで発揮されるのかなど、不明な点が多く残されている。発表者らがこれまでに行ったカイコ 4 齢幼虫のコブ形成領域への重イオン局部照射によっては、この形質の顕著な抑制は認められなかった。
 そこで、外見上コブがまだ形成されていない、孵化直後の幼虫への重粒子線局部照射を行い、コブ形質発現の抑制の有無を調べた。まず孵化幼虫の特定領域に限定して照射するため、孵化幼虫にあわせたサイズの穴を多数有する、アルミ板の幼虫固定ディスクを作成し、その穴に孵化幼虫を入れ上下面に OHP フィルムを貼ることで、幼虫の動きを抑制した状態で照射をおこなった。
 孵化幼虫の、コブが将来形成される領域に炭素イオン照射(LET=127.9 MeV/μm、照射径 180-μm)を行ったところ、コブ形質発現の消失が認められる個体は生存個体の 7 割以上であった。またコブ消失部位では真皮細胞の異常分裂が抑制され、正常カイコの真皮細胞層と同じ 1 層のままであった。これらの結果から、コブ形質を発現する細胞・領域の決定は孵化直後に完了していることが明らかになった。今後は照射後のコブ形成領域と正常個体での細胞分裂頻度の違いに着目して調査を行っていきたい。
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© 2006 日本放射線影響学会
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