抄録
小核の起源は,細胞分裂の後期において,染色体分離で遅れた染色体断片(あるいは染色体自身)によるものと推測されている。しかしながら,その発生の瞬間とその後の追跡を観察した者はいない。近年,蛍光物質で標識したタンパク質を生きたままの細胞で観察できる蛍光顕微鏡が開発され,細胞中の生体組織の動態をリアルタイムで観察できるようになった。本研究では,γ線照射による小核の形成メカニズムを明らかにするために,まず,ヒストンH3をmCherry(赤色),チューブリンαをEGFP(緑色)の蛍光物質で標識させた2色可視化細胞(ヒトリンパ球細胞TK6)を作製し,次に,その細胞をγ線照射した後,前中期の細胞をターゲットとして,染色体(mCherryの赤)と微小管(EGFPの緑)の3次元画像を経時的に撮影した。その結果,細胞分裂の後期において,γ線による小核形成の瞬間をリアルタイムで観察することができた。その小核の出現頻度は,固定標本で行う小核試験の出現頻度とおおよそ一致した。また,小核試験の陽性対象として用いられるマイトマイシンC,および微小管重合阻害剤であるビンクリスチンに関しても,同様の実験を行なったところ,γ線による小核の出現様式とは異なる特徴が観察できた。我々は,これら作用機序の異なる3種の各エージェント(γ線,マイトマイシンC,ビンクリスチン)による小核出現の一部始終を動画で紹介する。