抄録
【目的】リンパ腫誘発に感受性のBALB/cと抵抗性のSTSマウスを交配しX線照射で誘発したリンパ腫では4番染色体に広範囲のヘテロ接合性消失(loss of heterozygosity: LOH)があり、STSアレルが選択的に消失する。このことは、LOH領域に発がん感受性遺伝子の存在を示唆する。今回、BALB/cバックグラウンドで4番染色体の一部にSTS遺伝子をもつC.SコンジェニックマウスをBALB/cと交配し、放射線で誘発したリンパ腫におけるLOHの起こり方が発がん感受性領域と関連するか検討した。
【方法】Kaplanのプロトコルに従ってマウスをX線分割全身照射しリンパ腫を誘発させた。(C.S39-86 x BALB/c)F2の25例、(C.S7-86 x BALB/c)F2の20例、(C.S302-9 x BALB/c)F1と(C.S17-31 x BALB/c)F1各34例のリンパ腫を調べた(C.Sの後にハイフンで繋がれた2つの数字は、STSアレルをもつ2つのマイクロサテライトマーカーの番号であり、例えば、C.S39-86はD4Mit39からD4Mit86までの領域がSTS由来)。リンパ腫よりDNAを抽出し、4番染色体上のマイクロサテライトマーカーについてLOHをPCR & PAGEで調べた。
【結果】マーカーの順序と位置は、動原体側からテロメア方向へ染色体中央部を越えて、D4Mit39(11)-D4Mit17(31)-D4Mit7(36)-D4Mit86(38)-D4Mit302(43)-D4Mit9(45)-D4Mit31(51) である(かっこ内の数字はcMで表した動原体からの距離)。(C.S17-31 x BALB/c)F1では11/34(32%)にLOHがあった。D4Mit31において10/11(90%)がSTSアレルの選択的消失であった。(C.S302-9 x BALB/c)F1でも、LOHは10/34(29%)、STS アレルの選択的消失9/10(90%)であった。(C.S39-86 x BALB/c)F2と (C.S7-86 x BALB/c)F2には、LOHはほとんど見られなかった(<5%)。
【結論】4番染色体上の広範囲LOHの中心は発がん感受性遺伝子領域D4Mit302-D4Mit9にある。