抄録
神経系のモデル生物として知られる線虫(C. elegans)は、温度や化学物質などさまざまな刺激に対して誘引/忌避応答を示す。また、エサの存在下では、エサのない場合の約60 %まで運動が低下する(減速応答)。我々はこれまでの予備的な実験から、γ線照射によっても、線虫の運動が低下することを見出した。
そこで、本研究では、「エサの存在」と「照射」が線虫の運動の減速制御に及ぼす効果を検証することを目的とし、成虫段階の線虫(野生型)に100、300、500、900、1500 Gyの60Coγ線を照射して、エサのある/ない寒天プレート上での照射直後の運動を調べた。運動指標は20秒間に頭を振った回数とし、1試行あたり5個体を計数し、その平均値を用いた。
エサのないプレート上での運動は線量依存的に低下し、1500 Gyでは非照射個体(対照)の約40 %となった。一方、エサのあるプレート上での運動は、いずれの線量でも、照射個体と非照射個体との間に有意な差がなかった。このことから、「エサの存在」と「照射」の2つの運動抑制の要因が、かならずしも加算的な効果とはならない可能性が示唆された。また、いずれの線量においても、照射個体のエサのあるプレート上での運動指標の値がエサのないプレート上での運動に比べて有意に低かったことから、エサの存在の情報を伝達する経路が照射後もある程度維持されていたことが示唆された。
今後は、エサの存在下での運動の低下が少ない変異体を用いて、γ線照射がエサの存在の情報の伝達にもたらす影響を調べる予定である。