抄録
放射線治療後の有害反応発症リスクに関連した遺伝子多型は、XRCC1 (Arg399Gln), XRCC3 (Thr241Met), APEX1 (Asp148Glu), ATM (Asp1853Asn), SOD2 (Val16Ala), and TGFb1 (C-509T)について白人コホートを中心に報告されている。本研究では、これらの6遺伝子多型が日本人乳癌患者集団においても有害反応発症リスクと関連しているか、明らかにすることを目的とした。まず、研究協力病院より収集した適格症例399例について、NCI-CTCの放射線皮膚炎に基づき2群(low-grade(LG): Grade<=1, n=290、high-grade(HG): Grade>1, n=109)に分類した。がん家族歴、併用療法、放射線治療プロトコールなどの臨床情報を2群間で比較した結果、年齢分布以外に統計学的有意差は認められなかった。次に2群間で多型との関連解析を行った。その結果、XRCC1遺伝子上にある多型、Arg399Glnと早期有害皮膚反応のリスクとの間に関連(P<0.015)が認められた。ATM (Asp1853Asn)は、本研究における乳癌患者、また日本人健常女性の集団において多型性を示さなかった。TGFb1 (C-509T), SOD2 (Val16Ala), APEX1 (Asp148Glu), XRCC3 (Thr241Met)の日本人乳癌患者における多型頻度は各々49.9%, 13.4%, 40.0%, 7.6%であったが、有害反応発症リスクとの統計的有意差は認められなかった。さらにAPEX1遺伝子領域から7 SNP、ATM領域から53 SNP、TGFb1領域から3 SNP、XRCC1領域から6 SNPをjSNP, dbSNPから選択し解析した。解析した69 SNPsのうち42 SNPsは本研究集団において多型性が認められなかった。また27 SNPsは有害反応発症のリスクについて統計的有意差は認められなかった。XRCC1についてさらにハプロタイプ解析を行ったが、有害反応発症リスクと関連したハプロタイプを検出することはできなかった。これらの結果は、報告されている放射線感受性と関連した遺伝子多型は民族間で違いがあり各々の民族毎に遺伝要因を解析する必要があることを示唆した。