抄録
目的:基底膜の成分であるヘパラン硫酸プリテオグリカンやコラーゲンIVが炎症時にヘパラナーゼ等により分解され、血管壁では血液からの白血球浸透が可能になるということが明らかとなった。また、ヘパラン硫酸プリテオグリカンが分解されることにより生じるヘパラン硫酸はサイトカイン誘発にも重要な役割を果たしている。一方、放射線腸管障害では絨毛の脱落に伴い、体液の漏出が致死的である。この体液の漏出を防ぐことができれば、個体死を免れることも可能ではないかと考え、ヘパラン硫酸に着目し、ヘパラン硫酸の外的投与が放射線腸管障害に及ぼす影響を検討した。
方法:マウス(ICR,8~10 週齢,25~31g)を麻酔下で、スリット幅 7.5 mm または 10 mm の間隙を設けた鉛板で覆い、スリット部の腹部へX線で 30 Gy (150 kV, 5 mA, 1.0 mm Al+0.2 mm Cu filters, 0.75 Gy/min) を 1 回照射した。照射の 1 日前および 5 日後から 10 日後まで毎日マウスに 1 μg/g 体重のヘパラン硫酸を腹腔内に投与した。照射後マウスの体重と生残を観察した。また、照射後 13 日および 30 日でマウスの腸管を摘出し、ヘマトキシリン-エオジン(H.E.)染色にて組織像を観察した。
結果:スリット 7.5 mmで照射したヘパラン硫酸投与群の体重は、非投与コントロール群に比べ、照射後 8 日目以降有意(P<0.01)に高くなった。また、スリット 10 mmで照射したヘパラン硫酸投与群の生存率は、非投与コントロール群に比べ、照射後 13 日目で有意(P<0.05)に高くなった。さらに、H.E.染色による組織像では、ヘパラン硫酸投与群は再生陰窩数が多く、放射線による潰瘍部辺縁の障害の程度も非投与コントロール群より軽度であった。
まとめ:ヘパラン硫酸が放射線腸管障害を防護することが示唆された。今後、ヘパラン硫酸投与による影響として、粘膜上皮と結合組織の境界にある基底膜への関与を明らかにすることを検討していく。