抄録
2001年12月NCTに転機が訪れた。それは世界で始めての耳下腺がんのBNCTである。この治療結果は放射線治療効果上特筆するに相応しい特異性をもった素晴らしいものであった。それまでの硼素NCT(BNCT)の対象は日本では比較的症例数の少ない神経膠芽腫(開頭照射)と悪性黒色腫であった。これ以降劣悪ともいえる京大原子炉実験所の照射施設ではあるが、照射症例数は毎年倍々的に増加し三年間で150を越えることとなった。原子炉を使用するという特殊性のためか、NCTの治療対象症例は他の治療法で治る見込みのあるものは対象としない的な不文律が存在している。にもかかわらずNCTのがん治療法としての優秀性と重要性は関係者の中で極めて強固なものとなっている。この成果は社会的意識への影響とも相まって京大原子炉(KUR)の存続(燃料交換のための休止期間を経ての)に最も重要なImpactとして作用した。
しかしながら、NCTは現状においても残念ながら「知る人ぞ知る」状態が基本的である。これを打破する上で決定的に不足しているのは効果について科学的評価治を可能にする十分な治療症例数である。これに対する1つの答が何時でも使えるコンパクトで簡便な医療利用に適した相対的に安価な加速器中性子源・中性子場の開発である。
本報告ではKURを利用する京大共同利用BNCTグループ(KURBNCTG)ので得られた臨床的成果を紹介し、その中で得られた今後の課題それに答えるための中性子場についての考察と現在建設中あるいは検討中のNCT目的加速器の現状について概説する。