日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: FO-042
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低線量・低線量率の効果
突然変異誘発における非線型線量応答
*小穴 孝夫岡田 美紀江小倉 啓司
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抄録
直線しきい値なしモデルは1930年に発表されたOliverの論文で始めて提唱された。それは伴性劣性致死突然変異法によりショウジョウバエの成熟精子に誘発される突然変異の頻度が線量に比例する、という実験結果に基づいたものであった。しかし成熟精子にはDNA修復機能がないことが現在では知られている。我々は一昨年の本大会で、修復機能を失う以前の未熟な精子では、低線量照射による変異頻度は擬似照射群よりも低くなることを示し、線量応答関係には「これ以下では突然変異頻度の増加はない」という意味でのしきい値が存在するはずであることを明らかにした。またこの現象は線量率が低い場合にのみ見られること、野生型に代えて除去修復欠損株を用いると線量率が低くても見られなくなることを報告した。擬似照射群でのバックグラウンドの変異頻度は1遺伝子あたり10-6のオーダーであるが、この頻度はX線の線量に換算するとほぼ5Gy分に相当する。低線量率・低線量照射によって活性化されたDNA修復機能がこのバックグラウンド損傷を(エラーなしに)修復するために変異頻度が下がり、X線誘発変異の増加を打ち消して実質的なしきい値を形成すると考えられる。今回は野生型においてさまざまな線量における変異頻度を測定し、線量応答曲線が実際にU字形をしていることを確認した。これらの結果から、DNA修復機能のない細胞においては線量応答曲線が直線となるが、修復機能のある場合には直線とはならないことが示唆された。したがってヒトの発がんリスクの推定に直線しきい値なしモデルを用いるのは適切でない可能性がある。
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© 2007 日本放射線影響学会
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