日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: FO-046
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低線量・低線量率の効果
低線量率トリチウムβ線によるT細胞抗原受容体(TCR)の突然変異誘発におけるp53の役割
*馬田 敏幸欅田 尚樹法村 俊之
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抄録
トリチウムのβ線による突然変異生成に対する生体の監視機構と、低線量率照射での放射線リスクの低減化へのp53の役割を明らかにするために、マウスに3Gyのトリチウムβ線あるいはセシウム-137γ線を全身照射して、脾細胞のTCR遺伝子突然変異誘発率及びアポトーシス頻度の解析を行った。使用したのはp53(+/+)、p53(+/-)及びp53(-/-)マウスの3種類である。8週齢マウスの腹腔内に、270MBqのトリチウム水を注射し19日間飼育した。この間にマウスは低線量率で3Gyの被ばくを受けることになる。その結果、p53(+/+)、p53(-/-)両マウスにおいてトリチウム水を投与したマウスの突然変異誘発率は、非投与マウスと比較して増加した。また、従来の報告と同様に、Tリンパ球における突然変異の自然発生レベルは、p53 (-/-)マウスがp53(+/+)マウスより高い値であった。一方、γ線との比較のために、シミュレーション照射法(トリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させながら照射)でγ線をマウスに照射し、19日目にTリンパ球の突然変異の誘発率を調べた。その結果、γ線照射によりp53(+/+)マウスでは突然変異の誘発率の増加は見られなかったが、p53(-/-)マウスでは誘発率が増加した。この結果より、Tリンパ球に生じた突然変異の増加の抑制にp53が寄与することが確認された。p53が損傷細胞の排除によって突然変異の抑制に寄与していることを確かめるために、p53(+/+)マウスとp53(+/-)マウスを照射して、12時間と24時間後の脾細胞のアポトーシス活性を調べた。その結果、p53(+/-)マウスはp53(+/+)マウスに比べてアポトーシス活性が低下していたことより、p53(+/+)マウスではp53依存性アポトーシスを介した損傷細胞の排除により、組織修復が効果的に行われていることが明らかになった。またその頻度はβ線の方が高かった。これらの結果から、低線量率での放射線照射ではトリチウムβ線のRBEは1より大きいことが推察された。
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© 2007 日本放射線影響学会
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