抄録
『目的』脳に対する重粒子線照射の障害についてラットの視床下部に炭素線を照射して自発運動活性の変化から照射の影響につて検討した。
『材料および方法』動物は8週齢の雄ラットを用いた。照射にはHIMAC(放医研)の炭素線で290MeV/nucleon、Mono Beamを使用し、ラット視床下部へ5mm立方の照射野に60Gyの単一照射を実施した。炭素線の照射位置はイメージングプレート法によって確認した。ラットの自発運動活性は車回し運動を採用し、測定直前に運動活性増強作用を有するメタンフェタン(MAP)を投与して90分間の運動量を計測した。
『結果および考察』MAPによる車回し運動の増加効果はMAP2.0mg/kg投与で最も高い運動量の増加が得られ、本実験を通してこの投与量を採用した。MAP投与による車回し運動活性は照射群および対照群で初回の測定が最も高い行動量が測定された。対照群では投与頻度に依存した運動量の低下が2回目(照射6週後)から5回目(照射22週後)でみられた。しかし、照射群ではMAPの投与回数に依存した低下傾向がみられなかった。このことは1)対照ラットではMAP投与による自発運動活性増加効果に対する耐性が投与回数に依存して獲得されている可能性を示しており、2)脳の炭素線照射ラットではこの耐性獲得が阻害されていることを示唆する。3)この照射ラットに対するMAPの自発運動活性増加効果は、照射26週間以後に消失することから大線量照射による急性期障害(脳浮腫)が照射局所に発現している可能性を示唆し、その浮腫による血行障害を周囲の血流を促進することによって補っていると推測された。