抄録
本研究の目的は、腫瘍不均一性の意義について実験的に調べることである。2種類の肉腫#6107 と#9037細胞を同系C3H雄マウスに移植し、これが生着して成育した腫瘍を摘出して単一細胞浮游液を作製した。適切な混合比率にて2種類の肉腫細胞数を調整し、マウス下肢皮下移植した。腫瘍が7.5-8.0mm径に達した時点で、下肢腫瘍を290MeV/n炭素線にて一回照射した。腫瘍増殖(TG)時間を腫瘍毎に調べ、腫瘍増殖遅延時間を計算し、線量―効果関係を求めた。炭素線RBEは対照ガンマ線との比較にて求めた。腫瘍治癒率は照射150日後における結果に基づいて計算した。移植時の細胞数混合比を変えて作製した腫瘍の増殖時間は一定ではなく、#6107と#9037の混合比が9:1,5:5そして1:9の場合には、それぞれ8.3、3.8および6.1日であった。照射による増殖遅延が15日になる線量を5種類の混合比間で調べると、ガンマ線は18から48Gyまで、そして炭素線は8から18Gyまで分布していた。混合比9:1の腫瘍はガンマ線抵抗性を示し、親細胞単独の腫瘍よりもガンマ線低感受性となっていた。しかし炭素線に対しては中程度感受性であった。腫瘍治癒で調べた中間結果データでも混合比9:1の腫瘍は1:9の腫瘍よりも炭素線高感受性を示していた。こうした細胞間の相互作用は低酸素細胞ないし細胞周期を介している可能性が考えられるが、どのようなシグナルが関与するかについては不明である。腫瘍不均一性は高LET放射線のRBEに強く影響する、ということが結論された。