抄録
[目的] 現在広く行われている放射線治療は、白血病などには一定の治療成績を上げているが、固形腫瘍に対しては未だ十分であるとは言えない。この抵抗性の一因として腫瘍内低酸素細胞が挙げられ、転写因子HIF-1αの活性化を通して腫瘍を生存の方向へ向かわせる。従って低酸素細胞を標的とすることは、腫瘍の完治を目指す上で重要となる。我々は前学会で、移植固形腫瘍に対して、RNA合成阻害剤であるTAS106がX線による腫瘍成長抑制効果を増強することを報告した。また低酸素条件下においても、TAS106は放射線誘導アポトーシスを増強することが明らかとなった。本研究では、低酸素細胞に対するTAS106の効果をより詳細に検討した。
[方法] TAS106処理およびX線照射されたMKN45細胞を低酸素下で培養した後、細胞死および低酸素誘導蛋白質の発現を検討した。HIF-1αの機能を明らかにするため、特異的アンチセンスオリゴを導入した細胞における低酸素誘導細胞死への影響を調べた。また0.5 mg/kgのTAS106と2 GyのX線で処置した固形腫瘍内の低酸素領域を描出し、HIF-1α発現への効果を組織学的に検討した。
[結果] HIF-1αをノックアウトすることにより、低酸素条件下でアポトーシスの増加が観察され、これはX線により増強された。また0.1 μMのTAS106処理によって低酸素誘導性のHIF-1α発現が抑制されていた。さらに、in vivo実験系では、併用処置により低酸素領域の縮小、低酸素細胞死ならびにHIF-1α発現の抑制が観察された。以上のことから、HIF-1αが低酸素細胞のアポトーシス抵抗性に重要な役割を担っており、TAS106がHIF-1αを抑制することで低酸素細胞に細胞死を誘導していることが示唆された。