抄録
重粒子線は、低LET放射線に比べて、生物学的効果が高く、線量分布の集中性にも優れていることから、がん治療に利用されている。本研究では、抗アポトーシス因子として知られているBcl-2を高発現するがん細胞の放射線抵抗性に及ぼす重粒子線の効果を明らかにすることを目的とした。ヒト子宮頸がん由来のHeLa細胞にBcl-2を過剰発現させたHeLa/bcl-2細胞は、薬剤耐性遺伝子のみを導入したHeLa/neo細胞よりも、LET = 0.2 keV/μmの60Coガンマ線と16 keV/μmの重粒子線には抵抗性であったが、76-1610 keV/μmの重粒子線照射後の生存率は両細胞で一致したことから、Bcl-2の高発現に起因する放射線抵抗性は高LET重粒子線の照射により消失することがわかった。さらに、吸収線量あたりの殺傷効果が最も高かった炭素線(108 keV/μm)を照射したHeLa/bcl-2細胞では、HeLa/neo細胞に比べ、有意なアポトーシス誘発率の低下とともにG2/M期停止の延長が認められたことから、Bcl-2は、抗アポトーシス因子であるだけではなく、細胞周期チェックポイントにも関与している可能性が強く示唆された。今後は、Bcl-2が重粒子線照射後のG2/M期停止を引き起こす分子機序を明らかにしていきたい。