抄録
重粒子線治療は悪性腫瘍に対しての高い有効性が認識されつつある。しかしながら人口の約1_%_を占めると考えられるAT-heterozygoteの重粒子線被曝に対する影響はいまだ明らかにされていない。そこで我々はこれまでに、ヒト不死化AT-heterozygote細胞株に対して、40および200keV/μmの重粒子線照射による影響を検討し、正常細胞と比較してRBE増加が認められることを報告した。今回は様々なLETで照射した場合のRBEを比較、検討した。
実験にはhTERT遺伝子を導入した、正常人由来細胞株、AT-heterozygote細胞株、およびAT細胞株を用いた。それぞれの細胞株に24, 40, 50, 60, 200keV/μmのLETで照射を行なった。その後Corony formation assayにより生存率をもとめ、X線照射時における生存率をもとにRBEを算出し比較した。また、 γH2AXフォーカス形成を正常人由来細胞と比較した。
その結果、正常人由来細胞株は24~40keV/μmでは変化が認められず40keV/μm以上でRBEが増加したのに対して、AT-heterozygote細胞株では24keV/μm以上のエネルギーでLET依存的なRBEの増加を示した。一方AT細胞株では24~40keV/μmまではLETに応じてRBEが増加したが、それ以上ではプラトーとなりRBEは増大しなかった。γH2AXフォーカス形成では正常人由来細胞とAT-heterozygoteの間に差は認められず、DSBの修復についても差はなかった。
これらの結果からAT-heterozygoteの重粒子線に対する感受性は非常に高く、重粒子線治療の際には正常人に対して影響がより大きいと考えられる。今後AT-heterozygoteの放射線高感受性の分子生物学的メカニズムについて明らかにしていく必要がある。