抄録
はじめに:癌における低酸素と血管形成については癌治療の関点からよく検討されている。In vitroで、低酸素細胞と放射線の影響について注目されており重要な領域である。一方で、血管形成といえば癌の悪性増殖に必要なだけではなく、正常組織の成長、或いは組織障害の回復の場合においても、非常に重要と考えられる。近年、放射線に誘導された低酸素について、正常肺、あるいは神経組織の放射線障害への役割が報告されている。放射線治療の場合、放射線腸炎は一つの合併症としてよく見られる。そこで今回、われわれは放射線直腸炎における低酸素、更に血管形成の影響を検討した。
材料・方法:C57BL/6N マウス(12週齢♀)を照射ジぐに固定し、直腸部分に25 GyをX線で1回照射した。照射後の1日目、7日目、14日目、30日目、更に90日目で、サンプルを採取した。Transforming growth factor beta1 (TGF-beta1)、hypoxia-inducible factor-1 alpha (HIF-1 alpha)、vascular endothelial growth factor (VEGF)、血管内皮細胞マーカーCD31のmRNAの変化と組織変化をrealtime PCR、H.E 或いはAZAN染色で検討した。また、HIF-1 alpha、VEGFとCD31の発現を免疫染色、或いは免疫蛍光染色で観察した。更に、TGF-beta1とVEGFはモノクローナル抗体でHIF-1alphaは抑制剤であるYC-1でそれそれの発現を抑制した影響を検討した。
結果:非照射コントロールと比べて、X線照射後の90日目から腸管粘膜と粘膜下組織で、コラーゲンが増加し、線維化を伴った。因子の発現について、TGF-beta 1は照射後の14日目から増加したが、HIF-1 alpha、VEGFとCD31は照射後30日まで、有意な変化が見つけられなかった。しかし、照射後の90日目で線維化の形成による、TGF-beta 1、HIF-1 alpha、VEGF及びCD31の増強が見られた。 更に、二重免疫蛍光染色では、HIF-1 alphaとVEGF、またはHIF-1 alphaとCD31は線維化を示したサンプルの同じ部分で発現された。TGF-beta、HIF-1alphaまたはVEGFの抑制で線維化の誘導を減少することが確認された。
考察・結論: これらの結果により、放射線により誘導された低酸素は放射線晩期直腸障害に影響を及ぼしており、放射線による晩期効果発現の一因と考える。