抄録
低LET放射線に比べて、重粒子線は、物理学的特性に優れており、殺細胞効果も高いことから、がん治療に用いられている。しかし、線量分布の集中性に優れているといえども、腫瘍組織の内部や周囲に存在する正常組織への照射は避けられない。放射線治療に伴う線維症の誘発は、正常細胞の分化の促進に起因すると考えられているが、重粒子線による分化の誘導効果はこれまでに明らかとされていない。そこで、本研究では、60Coのガンマ線(LET=0.2 keV/μm)または炭素線(108 keV/μm)を照射したヒト正常線維芽細胞における形態学的分化の誘導を解析した。その結果、照射後5日目での分化の誘導に対する炭素線の生物学的効果比が、約4であることがわかった。今後は、線維芽細胞の放射線照射による分化促進のLET依存性と、その機序について明らかにしていきたい。