抄録
目的:小児の脳腫瘍に対する放射線治療は、高次脳機能に晩期有害事象を生じる可能性が成人に比べ高いことが知られているが、今後適応拡大が期待される脳組織に対する重粒子線照射の影響を詳細に検討することは重要な課題である。しかしながら、重粒子線照射が小児の脳に及ぼす影響については、現在までにほとんど研究されていない。そこで、脳切片培養標本を用いて未熟な小脳組織における重粒子線の生物学的効果について検討した。
方法:生後10日目の未熟なラットから小脳を取り出し、約600 μmの切片培養標本を作製した。切片標本を培養後1日目に原子力機構・TIARAにて炭素線(18.3 MeV/amu, 108 keV/μm, 0~20 Gy)を照射した。照射後の切片を経時的に固定し、照射前後での組織変化および細胞変化について検討した。
結果:炭素線照射後の標本をHE染色し、組織変化について調べた結果、炭素線を照射したそれぞれの標本において外顆粒細胞層の異常が認められた。外顆粒細胞は通常培養では内側へと遊走することがわかっているので、照射後の外顆粒細胞の遊走能について検討した結果、照射切片については、外顆粒細胞の遊走が停止もしくは遅延していることが明らかとなった。次に外顆粒細胞の細胞死についてTUNEL法を用いて検討した結果、照射切片における外顆粒細胞のほとんどがアポトーシスを起こしていた。また外顆粒細胞の遊走をガイドしているベルクマングリア細胞の形態について免疫染色法を用いて検討した結果、照射切片においてベルクマングリア細胞の突起形態の異常が認められた。これらの変化は、X線照射時の変化と同様であった。
結論:照射による外顆粒細胞層の異常は、ベルクマングリア細胞の突起形態異常及び外顆粒細胞の細胞死により外顆粒細胞の遊走が正常に出来なくなる結果、誘発されると考えられた。