日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: W2-2
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環境変異原によるDNA二重鎖切断は細胞死の過程か防御機構か
化学物質によるDNA損傷とヒストンH2AXリン酸化
*八木 孝司
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抄録

 ヒストンH2AXのリン酸化の機構について、DNA二本鎖切断が生じた部位にMre11/Rad50/Nbs1複合体が結合すると共にATMが活性化し、H2AXをリン酸化するということが明らかになっている。免疫蛍光染色によるリン酸化H2AX(γH2AX)のフォーカス形成は、放射線などによるDNA二本鎖切断の指標として用いられている。しかし近年の研究により、直接二本鎖切断を起こすと考えられない化学物質やUVでもγH2AXのフォーカスが形成されることが明らかになってきた。UVでは、損傷のヌクレオチド除去修復機構の過程、および損傷DNAの複製阻害過程でH2AXがリン酸化を受ける。この過程には二本鎖切断の関与はないように思える。エトポシドやカンプトテシンなどのトポイソメラーゼ阻害剤は、DNA高次構造の緩和過程での一本鎖切断、二本鎖切断の固定がγH2AXを誘発すると考えられる。ベンゾピレン、ヒドロキシウレア、ドクソルビシンなど多数の化学物質でもγH2AXの誘発が報告されているが、その誘発機構は多岐にわたる。  我々は環境中に存在するどのような化学物質がγH2AXを誘発するか、それらは誘発機構に基づいて分類することが可能かどうかを検討している。大気中に含まれる多環芳香族炭化水素類では細胞毒性等価濃度においてベンゾピレン、1,8-ジニトロピレン、3-メチルコラントレンンはγH2AXを良く誘発するが、1-ニトロピレンや3-ニトロベンズアントロンはあまり誘発しない。これまでのところ、化学構造と、細胞致死効果、γH2AX誘発能などとは有意な相関は認められない。本講演ではDNA損傷の種類と細胞周期、γH2AX誘発についての関係について検討した結果をも示したい。

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© 2007 日本放射線影響学会
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