日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: W2R-324
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環境変異原によるDNA二重鎖切断は細胞死の過程か防御機構か
放射線誘発mitotic catastropheによる細胞死の分子メカニズム
*鈴木 啓司山内 基弘児玉 靖司渡邉 正己
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抄録

放射線により誘発されたDNA二重鎖切断は、ATM依存的DNA損傷チェックポイント経路を活性化することにより細胞死に関わる細胞応答を誘導する。これまでに、正常ヒト二倍体細胞において、放射線による細胞死の主要なモードがアポトーシスではなく老化様の不可逆的増殖停止(SLGA)であることを報告してきたが、SLGAの誘導にはp53機能が必要で、その機能を失っている大半のヒト癌細胞ではSLGAの誘導が困難であることが予想される。このような細胞では、DNA二重鎖切断を持ったまま細胞周期が進行し、細胞分裂期に細胞分裂異常を引き起こしていわゆるmitotic catastropheの状態に陥る。そこで本研究では、mitotic catastropheの状態でどのような細胞死のモードが誘導されているのかを、DNA二重鎖切断のマーカであるリン酸化ATMフォーカスを指標に検討した。 6種類のヒト癌細胞株に6 GyのX線を照射し、24時間おきに固定した細胞を抗リン酸化ATM抗体とDAPIで染色したところ、照射後24時間までに、50_%_程度の核がmitotic catastropheを誘導し微小核を多数含むことが明らかになったが、リン酸化ATMフォーカス陽性細胞はいずれの癌細胞でも検出されなかった。このとき、40 J/m2のUVCを照射した細胞では、全ての核がリン酸化ATM陽性で核全体が染色される典型的なアポトーシス像を示すことから、mitotic catastropheを誘導したヒト癌細胞では、アポトーシスが誘導されていないことが確認された。さらに照射後48時間以降では全ての細胞が微小多核細胞になるが、その中にリン酸化ATM陽性の微小核が出現することを見いだした。依然として核全体でリン酸化ATMのシグナルが検出される細胞は見いだせなかったが、微小核上ではアポトーシスが誘導されていることがわかり、断片化した染色体を積極的に分解するメカニズムが存在することが明らかになった。 以上の結果から、mitotic catastropheを起こした細胞はアポトーシスを誘導せず、不分離とDNA合成を数回繰り返して巨大化し、最終的にSA-β-gal陽性のSLGA細胞に変わっていくプロセスが明らかになった。

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© 2007 日本放射線影響学会
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