抄録
非相同末端結合(NHEJ)はヒト細胞におけるDNA二本鎖切断(DSBs)の主要な修復機構である。我々は、NHEJ関連遺伝子の役割解明のため、ヒト大腸ガン由来HCT116細胞を用いて、XRCC4, Artemis, MDC1の3種類の遺伝子をジーンターゲティング法で破壊し、遺伝子機能を欠損した細胞株を作製した。X線被ばくによる染色体異常の誘発頻度は、全ての欠損細胞株で親株HCT116よりも高かった。放射線照射後の生存率は、親株HCT116が最も高く、XRCC4欠損細胞は最も低い生存率を示した。ArtemisおよびMDC1欠損細胞は、親株HCT116とXRCC4欠損細胞との中間の生存率であった。DSBsの指標であるg-H2AX foci形成の動態からDNA損傷応答能を調べたところ、g-H2AX fociはどの細胞においてもX線照射線量に依存して増加した。形成されるfoci数は、照射後30~60分でピークに達し、以後は徐々に減少し続けた。Foci数の消長を経時的に比較したところ、親株HCT116では、4時間後には元のレベルにまで減少し、DNA損傷からの回復が認められたが、XRCC4欠損細胞およびMDC1欠損細胞では、4時間後においても相当数のfociが残存し,DSBs修復の遅延傾向が示された。MDC1と53BP1のfoci形成における相互の関連性を検討したところ、MDC1欠損細胞では、g-H2AX fociの数に比べて、53BP1 foci数は極端に少なく、また、両fociの局在も一致していなかった。これは、MDC1が53BP1の局在を制御している可能性を示唆している。以上のことより、NHEJに関連した遺伝子は、ヒト細胞において放射線感受性と深く関わる要因であり、中でも、MDC1はDNA損傷応答において重要な役割を果たしている因子であることが明らかになった。