日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: W6R-361
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環境生物・生態系の放射線影響を科学する
ヒト以外の生物種と生態系の放射線防護 ― 放医研の取り組み ―
*吉田 聡石井 伸昌石川 裕二川口 勇生久保田 善久田上 恵子武田 洋土居 雅広中森 泰三坂内 忠明藤森 亮府馬 正一丸山 耕一保田 隆子柳沢 啓宮本 霧子渡辺 嘉人
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抄録
 近年、放射線の環境影響を評価することが国際的な重要課題となりつつある。しかし、環境生物は多種多様であり、線量評価や影響評価に必要なデータの多くが欠落している上、評価すべき環境も国によって大きく異なり、欧米で開発中のデータベースを日本がそのまま利用する事は難しい。本報告では、この問題に関する国際的な取り組みを概観した後、放医研の取り組みについて紹介する。
 放医研では、環境中から数種類の生物を選定して、線量評価および影響評価に関する研究を開始した。これまでに選定した生物は、藻類、メダカ、ミジンコ、ミミズ、トビムシ、菌類、針葉樹である。線量評価については、培地から生物への放射性核種や関連元素の移行を評価し、個体内での分布を把握する研究を行っている。影響評価については、まず、X線やγ線の急性照射に対する線量-効果関係を致死、細胞死、成長阻害、繁殖阻害等のエンドポイントを使って明らかにする研究を開始した。また、より低線量率の連続照射についても実験を開始した。放射線の影響を網羅的遺伝子発現解析手法(HiCEP)等によって分子遺伝子レベルで明らかにするための研究も実施している。
 一方、生態系への影響は実験的な検証が非常に難しく、国際的にもほとんど研究例がない。放医研では3種の微生物が共存する水圏モデル生態系を用いた研究を進め、モデル生態系中の生物の個体数が有害因子の負荷によって変化する程度を定量化すると共に、モデル生態系個体群動態シミュレータを開発して個体群・群集動態の数理解析を行った。現在、より多くの微生物で構成されるモデル生態系、および、藻類、ミジンコ、小魚類等で構成される水槽型のモデル生態系の開発を行っており、実環境に近い状態での影響評価と機構解析が可能になりつつある。また、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)を用いて、土壌細菌群集の種組成の変化を捉える試みを開始している。
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© 2007 日本放射線影響学会
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