抄録
高等植物における放射線誘発変異を解析するため、rpsL遺伝子導入シロイヌナズナの乾燥種子に、同じ致死効果を与える線量のカーボンイオン(LET=112keV/μm)およびガンマ線を照射し、変異誘発効果を評価した。カーボンイオンおよびガンマ線照射により、変異頻度が2.6倍上昇した。吸収線量あたりの変異誘発効果は、高LET放射線であるカーボンイオンの方が高かった。カーボンイオンとガンマ線の変異スペクトルを解析したところ、両放射線は、ともにG:C to A:T transitionおよび欠失変異を効率的に誘発した。また、カーボンイオンでは複合型変異が、ガンマ線ではフレームシフト変異の頻度が比較的高かった。他の生物種における主要なガンマ線誘発変異は、グアニンの酸化体が関与していると予測されるG:C to T:AやA:T to C:G transversionであるが、我々の結果では、それらの頻度は非照射区に対して有意に上昇しなかった。我々は、乾燥種子という特殊な細胞環境がこの違いに関係していると考え、生育途中の植物体でも変異解析を行っている。
カーボンイオンの打ち込み深度を制御して試料中でLETが極大になるように照射した場合は、試料を貫通する場合よりも吸収線量あたりの致死効果が高かったが、非照射区に比べて変異頻度は有意に上昇しなかった。高LET放射線は、染色体内での大規模欠失、逆位や転座などの染色体異常を効率的に誘発することが知られている。rpsL変異検出システムは、比較的小さな遺伝子内変異を検出するシステムであることから、ブラッグピーク付近のカーボンイオンは、乾燥種子内で遺伝子内変異を誘発しにくいことが示唆された。