抄録
紫外線UVB量の増加は、イネの生育傷害、収量の減少や玄米の小粒化、さらには玄米タンパク質の増加(食味の低下)を引き起こす(Hidema et al. J. Radiation Res. 2005)。このような、UVB生育傷害の主要因は、UVBによって誘発されるDNA損傷、シクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)の蓄積であり、CPDを修復するCPD光回復酵素の活性を増加させることで、UVBによる生育傷害を軽減させることができることを実証してきた。本研究では、今日の太陽紫外線がイネの生育・収量に及ぼしている影響を評価することを目的に、コシヒカリと、コシヒカリのCPD光回復酵素が座位する第10染色体のみをコシヒカリよりもCPD光回復酵素活性が低下しているインド型イネ・カサラスの第10染色体で置き換えた部分置換系統(SL-229 系統)を材料に、宮城県と鹿児島県において野外環境試験を行った。なお、カサラスはコシヒカリと比較して、CPD光回復酵素の遺伝子型の違いによってCPD光回復酵素活性が低下しており、SL-229系統はUVB感受を示す。栽培は2006~2008年の3ヶ年の5~9月にかけて、宮城県大崎市の実験圃場にて、また2008年は鹿児島大学の実験圃場を利用して生育調査ならびに収量調査を行った。2006~2007年度までの結果からは、SL-229系統はコシヒカリと比較して、玄米100粒重の低下、葯の稔性の低下、さらには玄米が小粒化している傾向が認められた。本大会では、2008年度の宮城県と鹿児島県でのデータを加えて、太陽紫外線がイネの生育・収量に及ぼしている影響に関して報告する。