細胞周期進行制御は細胞を救う

抄録

放射線の生物作用が細胞レベルで解析されるようになった直後より、細胞周期の進行への影響が認識され、その後の「細胞周期チェックポイント」概念の基礎的なデータを提供することとなった。一方で、照射後細胞を増殖に不適な環境に置くことによって、細胞致死作用が軽減される現象が見出され、液体保持（Liquid holding）回復あるいは潜在的致死損傷（Potentially Lethal Damage）からの回復などと呼ばれた。また、種々の阻害剤を用いた研究や、変異細胞株を用いた研究も、照射後に細胞周期が一時的に停滞することによって、生存率が回復することを示している。放射線によるＤＮＡ損傷およびその修復と細胞死およびその修飾に関する研究の成果を考え合わせると、照射による細胞周期進行の一時停止は、細胞死の原因となる損傷を修復するための時間を細胞に与え、生存率の回復に貢献していることが示唆される。