抄録
DNAは細胞内外の様々な因子によって常に損傷を受けており、多くの修復経路が存在するが、生理的条件下において生み出される塩基損傷の多くは、塩基除去修復(base excision repair; BER)によって修復される。BERは損傷特異的なDNA glycosylaseによって損傷塩基が除去され、脱塩基部位(apurinic/apyrimidinic site; AP site)を形成する過程に始まる。この過程は、それぞれpolymerase β(polβ)とFlap endonuclease 1(Fen1)が強く関与する、short-patch BER(SP-BER)とlong-patch BER(LP-BER)の二つの修復経路へと続く。我々は、DNAの塩基損傷、特にアルキル化損傷に対し、SP-BERとLP-BERがどのように選択されるかを明らかにする目的で、shRNA発現ベクターを用いたRNAi誘導プラスミドを構築し、マウス胎児線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast; MEF)に導入し、両遺伝子をそれぞれknockdownした細胞を作製した。タンパク質レベルでのknockdown効率は、polβでは87%、Fen1では92%であった。この細胞に、DNA塩基にアルキル化損傷を引き起こすmethylmethanesulfonate(MMS)を処理し、細胞の生存率を調べたところ、polβ knockdown細胞の方がFen1 knockdown細胞よりも高いMMS感受性を示した。現在、polβ knockdownとFen1 knockdownがアルキル化損傷の修復にどのような影響を与えるかについてARP法を用いて検討し、アルキル化損傷の修復におけるSP-BERとLP-BERの寄与について解明を試みている。