抄録
[目的] 最も高発(約30%)な脳腫瘍であり放射線抵抗性としても知られる異形性グリオーマに対する、ヒ素による放射線増感効果のメカニズムを解析している。ヒ素は、異形性グリオーマに対してin vitro及びin vivoで相乗性の増感効果が示されている数少ない薬の一つである。しかし、その作用機序は、不明な点が多い。昨年に、本年度は、放射線とヒ素による老化様細胞増殖停止の差異についてを報告した。本年度は、ヒ素による老化様細胞増殖停止に関連したヘテロクロマチン形成機構の詳細について検証した。
[結果] 異形性グリオーマ細胞株U87MGに、ヒ素の単独処理により解析を行った。その結果、添加後6時間以降にγH2AXfociの形成が観察された。このことからヒ素によるDNAダメージは直接的でなく間接的に引き起こされると考えている。また、二重染色により、ヒストンH3のリン酸化及びメチル化は、γH2AXfociの検出された細胞に観察されたことから、ヒ素によるヘテロクロマチン形成は、DNAダメージにより引き起こされていると考えている。
次に、ヘテロクロマチン形成のp53依存性に関して解析を行った。その結果、、p53を不活化した脳腫瘍細胞においては、γH2AXfoci形成及びヒストンH3のリン酸化は、引き起こされるが、その後のヒストンH3のメチル化が抑制されていることを明らかにした。