抄録
若齢及び成熟ラットにおいて、胸部X線照射と化学発がん物質の複合効果により誘発される肺腫瘍について調べた結果を報告する。5週齢及び22週齢の雌Wistarラットの胸部にX線を3.18Gy照射し、次いで1週間後(5週齢および22週齢照射)あるいは18週間後(5週齢照射のみ)にN-nitrosobis (2-hydroxypropyl) amine (BHPN; 1g/kg体重)を腹腔内投与した。飼育期間は90週齢までとし、コントロール群では全数生存したが、6週齢及び23週齢においてBHPNを投与した群では、腎、脳及び卵巣の腫瘍発生により生存期間は短縮した。放射線照射あるいはBHPN単独投与では肺腫瘍の発生率が増加したが、そのほとんどが良性の腺腫であった。放射線とBHPNを複合させると、5週齢および22週齢照射のいずれの群においても、その肺腫瘍誘発における効果は相乗的であり、かつ悪性腫瘍が増加した。免疫組織化学染色を行ったところ、放射線やBHPN単独、およびそれらの複合により誘発された良性及び悪性肺腫瘍において、SP-AおよびCC-10抗体に陽性の細胞が見いだされ、この結果はそれらの肺腫瘍がII型肺胞上皮細胞やClala細胞由来であることを示している。以上のことから、X線とBHPNは同じ種類の標的細胞に作用し、X線による肺腫瘍誘発効果をBHPNは相乗的に増強していることが示唆された。