抄録
太陽紫外線の主要DNA損傷であるシクロブタン型ダイマー(CPD)や6-4型光産物(6-4PP)は、ヒトにおいてはヌクレオチド除去修復 (NER) 機構で修復される。NER蛋白であるXPDは他の9種類の蛋白と共に基本転写因子TFIIHを形成し、NER経路において、損傷認識段階に続き呼び込まれ、そのヘリカーゼ活性によって損傷周辺のDNA二重鎖を一重鎖状態に巻き戻す。色素性乾皮症D群 (XP-D) および 日光過敏症を示す硫黄欠乏性毛髪発育異常症 (TTD) の大部分は共にXPD遺伝子変異を原因とする常染色体劣性遺伝疾患である。しかし、XP-D患者が太陽露光部で超高頻度に皮膚がんを発病するのに対し、TTD患者では健常人の頻度と変わらない。本研究では、紫外線皮膚発がん感受性差の機構を解析するため、両患者由来細胞のNER 欠損機序について詳細に検討した。
各々3種類のXP-D細胞およびTTD細胞は共通してCPDおよび6-4PPのゲノム全体修復に欠損を示し、その欠損程度は紫外線感受性と良い相関を示した。変異XPDを含むTFIIHの細胞内濃度はXP-D細胞では正常であったが、TTD細胞では3種類とも半減していた。また、TFIIHの局所紫外線DNA損傷部位への集積はXP-D細胞では正常であったが、TTD細胞の2種類では異常が見られた。さらに、1本鎖DNA特異的結合蛋白RPAの損傷部位への結合量 (おそらく細胞内TFIIHヘリカーゼ活性を反映) は両細胞において減少し、各細胞の減少量は修復欠損の程度と相関した。以上の結果から、両患者由来細胞は共に修復欠損を示し、皮膚発がん感受性差の要因でないことが明らかとなった。しかし、修復欠損の機序については両細胞間で異なり、XP-D細胞ではヘリカーゼ活性阻害であるのに対し、TTD細胞ではヘリカーゼ活性阻害、TFIIHの細胞内濃度低下、および集積異常の複合的なものであることが示唆された。最近の報告で、TFIIHは甲状腺ホルモンレセプターを介する遺伝子発現系においてcoactivator機能を持ち、TFIIH濃度減少は遺伝子発現制御の喪失、特に発現低下を導くことが示された。それ故、TTD患者の皮膚発がん抑制の機序として、紫外線でinitiationされた細胞がpromotionやprogression過程を進行するのに必須な遺伝子産物の一部が供給不足となり がん細胞に成長できない可能性が考えられる。