抄録
ヌクレオチド除去修復 (nucleotide excision repair: NER) は、紫外線、化学発癌剤などによって生じるDNA損傷を除去することのできるDNA修復機構である。NERに異常をもつヒト遺伝性疾患として、色素性乾皮症 (xeroderma pigmentosum: XP)、コケイン症候群 (Cockayne syndrome: CS) がある。これらの疾患の臨床症状は、NER欠損に起因した日光過敏症を共通して示す以外は、それぞれの疾患で全く異なる。XP患者は露光部分に皮膚炎症状を示し、正常人の数千倍の頻度で皮膚癌を発症する。CS患者は癌を発症しないが、種々の精神神経異常、身体発育不全や早期老化症状を呈する。NERを欠損するXPにはA~G群の7つの遺伝的相補性群 (XP-A~XP-G) が存在し、CSにはCS-AとCS-Bの2つの遺伝的相補性群が存在する。CS-A、CS-B群ではNERの中でも転写機構とカップリングしてDNA損傷の認識が行われる「転写と共役したNER:TC-NER」を選択的に欠損する。
CS発症のメカニズムを理解する上で注目すべき点は、XPとCSの臨床症状を併発するXP/CSが存在することである。XP/CSはXPB、XPD、XPG遺伝子の変異により発症する。XPB及びXPDは、NERに加えて基本転写にも必須のTFIIH (transcription factor IIH) のヘリカーゼサブユニットであり、XP-B/CSとXP-D/CSのCS発症は転写機構の異常が引き金になっていることが示唆されていた。一方で、XPGは構造特異的エンドヌクレアーゼ活性をもち、損傷の3’側でDNA鎖を切断する。XPGのNER機構における機能は詳細に明らかにされているが、それ以外の機能は全くわかっておらず、この修復因子XPGの変異によってなぜCSの重篤な遺伝病に至るのか不明であった。
そこでXPGのタンパク質間相互作用の重要性を考慮しXPGを含むタンパク質複合体を精製した。その結果、XPGはTFIIHと複合体を形成していることがわかった。この結果の重要な点はXP/CS発症の原因となる遺伝子産物の全て (XPG、XPB、XPD) が精製した複合体に含まれることであり、細胞内においてもXPGとTFIIHが密接に連携して機能していることを示唆していた。またXPG自身が基本転写に関与していることも明らかになった。