抄録
当研究室ではこれまでに、自己免疫疾患モデルマウスにおいて低線量γ線照射により自己抗体産生が抑制され、病態が抑制されることを報告した。抗体産生細胞の前駆体であるB細胞は放射線感受性が高く、放射線照射により傷害を受け抗体産生が抑制されることが考えられるが、一方で低線量放射線は免疫能を亢進させるという報告がある。そこで今回、一般的な抗体産生に対する低線量放射線の影響を明らかにするため、抗原として広く用いられているovalbumin(OVA)で感作した抗体産生モデルマウスを作成し、検討を行った。BALB/cマウス(6週齢♂)にOVAとComplete Freund's Adjuvantの混合エマルジョンを皮下投与することで感作した。照射群には0.5 Gy(137Cs線源、0.88 Gy/min)γ線をOVA感作3日前もしくは11日後から週1回全身照射した(計6または4回照射)。感作後、週2回血清を採取し、経時的にIgGおよびIgE抗体濃度を測定した。各群において感作37日後に脾臓を摘出、脾細胞を単離し、脾細胞産生サイトカインをELISA法にて、またリンパ球表現型割合をフローサイトメトリーにて測定した。照射群では、IgG、IgEともに血清中濃度がcontrol群に比して高い値で推移することが明らかとなった。脾細胞中のT細胞、B細胞割合は各群間での差異は認められなかったが、照射群において抗体産生細胞の割合増加がみられた。また、抗体産生に関与する脾細胞産生サイトカインは、normal群、control群、照射群の順に産生亢進が認められた。以上の結果より、低線量γ線は免疫系全体を賦活させる可能性が示唆された。また、自己免疫疾患モデルにおける自己抗体産生抑制は、低線量γ線による直接的な傷害によるものではない可能性が示唆された。