抄録
我が国では、放射線による長期影響を明らかにするためマウスやラットを使ったin vivo実験が行われ、実績を上げてきた。しかし、このような多くの動物を用いる研究は、今後、動物愛護や財政的な観点から、困難になるといわれてきている。一方、これまで得られたデータを用いて新たな仮説を検証したり、めざましく進展した分子レベルなどの最新解析技術を用いて既に行われた実験の再解析を行うことにより、新たなデータを追加することが可能となってきた。 例えば、複合曝露による発がん実験の結果を用いた数理発がんモデルの開発の例や、今まで動物のがんでは見つからなかった、ヒト肺がんに観察されるEGFRの突然変異が、過去に行われたラットのX線誘発肺がん実験のサンプルを用いて始めて見つかった例がある。
このような観点から、欧米では、過去の大規模実験のデータや病理標本などをアーカイブとして保存し、アーカイブサンプルを利用した新たな研究が始まっている。わが国においても、例えば放医研の一部の研究については、実験担当者によってすでにドキュメント型のデータベースとしてまとめられ、他の研究者に閲覧が可能となっている。しかし、病理標本やパラフィンブロック、凍結サンプルなどにはアクセス出来ないのが現状である。特にプルトニウム実験のサンプルは施設外に出すことが禁止されている。今後は、病理標本をウェブで閲覧できるような機能を追加し、かつ、凍結サンプルやパラフィンブロックの利用も可能にするシステムが望まれている。