抄録
背景] スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は、有害活性酸素種であるスーパーオキシド(SOX)を過酸化水素に触媒する。高等真核細胞では細胞内局在性が異なる3種のSODが知られており、SOD1は主に細胞質に、SOD2はミトコンドリアに局在する事が知られている。昨年、我々はニワトリDT40 細胞を用いたConditionalなSOD1,SOD2ノックアウト細胞を作成し、以下の事を報告した。1)SOD1 は細胞の生存に必須の遺伝子である。SOD2は生存に必須ではないが、細胞増殖機能には重要な役割を担っている。2)SOD1枯渇による致死効果はNAC、TIRONで抑制することが出来ず、アスコルビン酸(APM)でしか抑制できない。さらに、SOD1枯渇細胞で認められるSCE頻度、脱塩基部位の顕著な上昇も、APMの添加によって抑制される。これらの事は、APMと他のスカベンジャーの効果の違いが、内在性SOXの細胞内局在性に依存している事を示唆していた。
[結果と考察] 今回、内在性SOX の細胞内局在性に対するAPM の作用を検証するために、SOD1cDNAの発現形態を核内発現型(NLS)にした細胞と、核外排出型(NES)にした細胞とを作製し、解析を行った。NLS-,NES-SDO1細胞は、Tet OFF型コンデショナルSOD1ノックアウト細胞に、NLS (あるいはNES) GFP-SOD1が恒常的に発現させてある。従って、DOX添加後の野生型Tet OFF-SOD1は抑制され、細胞質か核に局在したSOD1のみが発現する。
1)パラコート処理後にNLS型、NES 型細胞でのSCEを比較すると、NLS型のみ有意にSCE頻度を抑制した。2)NES型SOD1細胞では、APMでのみ細胞増殖の抑制効果が解除された。一方、NLS型SOD1細胞の場合は、APMあるいはスカベンジャー存在下ではむしろ細胞増殖の遅延が見いだされた。3)低酸素培養下では、NES,NLS発現状態の方が分裂速度は回復した。これらの結果はAPMが細胞質よりは、主に核内の内在性SOXの除去に関わっている事を示唆している。またNLS型でAPMや他のスカベンジャーが細胞分裂をする事から、核内でのSOXの過度の除去が細胞増殖を阻害している可能性を示唆している。