日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第53回大会
セッションID: OA-2-4
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A DNA損傷・修復
マウス皮膚における紫外線誘発突然変異の作用スペクトル解析
*池畑 広伸東 正一渡辺 正勝檜枝 光太郎小野 哲也
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キーワード: 紫外線, 皮膚, 突然変異
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抄録
【背景】紫外線(UV)はゲノム毒性が非常に強く、DNAに塩基損傷を生成し、特異的な突然変異を誘発するが、その効果には波長依存性があり260nm付近をピークとする作用スペクトルを示す(R.B. Setlow, 1974)。しかし皮膚の場合は角層の遮蔽機能もあり、UVB(280-320 nm)付近が最も危険な波長域とされ、皮膚癌誘発に関わる日光中の主要な波長成分と考えられている。こうした事情もありUVの皮膚影響はヒト紅斑作用スペクトル(CIEスペクトル)を基に評価されることが多くゲノム影響評価にも利用されているが、紅斑はゲノム毒性と因果関係に乏しく疑問が残る。そこで生体皮膚で直接突然変異を解析し、その作用スペクトルを決定した。【方法】突然変異検出用トランスジェニックマウスの皮膚に、基礎生物学研究所の大型スペクトログラフ及びレーザ装置から単色UV光を照射し(共同利用実験1-503, 2-503, 3-503, 4-507, 5-507, 6-511, 7-509, 8-501, 9-501)、表皮及び真皮で突然変異誘発の線量効果関係を調べた。表皮では一定線量を超えると変異誘発が抑制され変異頻度が横ばいになる変異誘発抑制(Mutation Induction Suppression, MIS)という現象が見られたので、MISが認められる最小線量も評価した。また同時に最小炎症線量(Minimum Inflammation Dose, MID;ヒトの最小紅斑線量MEDに相当)を評価した。260-364 nmの間の複数の波長で検討し、変異・MIS・炎症誘発に関する作用スペクトルを解析し、SetlowのDNA作用スペクトル及びCIEスペクトルと比較した。【結果・考察】本研究で得られた変異誘発スペクトルはSetlowのDNAスペクトルと、MIS誘発スペクトルは紅斑スペクトルと短波長域を除きよく一致した。短波長域の不一致は角層による散乱・吸収など皮膚構造の影響によるものと推測される。MID誘発スペクトルは調べた全波長域で紅斑スペクトルとよく一致した。またMISに伴う横ばい変異頻度値には波長依存性が認められ、310-320 nm付近をピークとする極大を示した。これは表皮のこの波長付近のゲノム毒性に対する許容度の高さを示しているが、DNA吸収スペクトルだけでは予想できなかったものであり、MISの発生機構を解明し、その生物学的意義を明らかにする必要がある。
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© 2010 日本放射線影響学会
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