抄録
宇宙空間は2つの大きな環境的特徴がある。1つは微小重力であり、もう1つは宇宙放射線である。がん抑制遺伝子産物p53はシグナル伝達経路を介して遺伝的安定性の役割を担っている。本研究の目的はp53依存的な調節遺伝子およびタンパク質の発現における宇宙放射線、微小重力とその両者の相互作用の影響について明らかにすることである。培養細胞として、ヒトリンパ芽球TK6細胞由来の正常型p53細胞(TSCE5)および変異型p53細胞(WTK1)を用いた。凍結状態で宇宙飛行しているので微小重力や打上げおよび帰還時の加重力の影響は無視することができ、国際宇宙ステーションの生物細胞培養装置(CBEF)内で1Gと微小重力のもと8日間培養した。地上コントロールとして宇宙飛行の期間に地上のCBEF内で8日間培養した。遺伝子とタンパク質の発現はそれぞれDNAチップとタンパク質チップを用いて解析した。さらに、凍結状態で133日間宇宙飛行後に培養した細胞における遺伝子発現も解析した。ここでは宇宙放射線、微小重力とその両者の相互作用によって発現が誘導および抑制された遺伝子およびタンパク質の分析とそれらのはたらきについて考察する。このような研究によって、長期宇宙滞在における宇宙放射線からの防護の手掛かりになることを期待している。