抄録
Heイオンビーム等を照射したプラスミドDNAを塩基除去修復酵素(Nth及びFpg)処理すると、グリコシレース活性により生じる付加的な1本鎖切断(SSB)として酸化的塩基損傷が観測され、この収率はLETの増大と共に顕著に減少する(2006年大会)。この理由として、DNA分子上に損傷が局在化(クラスター化)することによるDNA鎖の構造変化が酵素活性を阻害し、見かけ上の塩基損傷収率が減少したためであると考えられる。しかし、このような多重に生じた塩基損傷を検出する実験的手法は現在まだない。そこで我々は、2007及び2008年大会で発表した、DNA変性を利用し1本鎖DNAとして鎖切断を定量する新しい非DSB性多重SSBの観測法をさらに発展させ、多重塩基損傷の検出を試みたのでこれを報告する。変性処理後の1本鎖プラスミドDNAを再び5℃で30時間程度アニーリングさせた。この処理により、ほとんどの1本鎖が元とは別の相補鎖と対合することによりDNAの両鎖に近接して生成していた損傷のクラスター状態が解消される。このため、再びグリコシレースによる塩基除去を受けることができる。講演では、変性/アニールの条件を検討し、実際にX線照射したプラスミドDNAに対して得られた予備的な結果を発表する。