日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第53回大会
セッションID: OA-5-1
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A DNA損傷・修復
ATM依存的DNA損傷応答と細胞周期制御のダイナミズム
*鈴木 啓司岡 泰由山内 基弘
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抄録
放射線により誘導されたDNA二重鎖切断は、ATMの活性化を介して細胞周期制御を賦活化する。我々は、線量に依存してその割合が増加する残存DNA損傷が、DNA損傷情報を増幅することにより細胞周期制御を持続させていることを見いだしたが、その一方で、マイクロコロニー法による解析では、照射後分裂する細胞集団でも、DNA損傷応答因子のフォーカスを検出した。そこで本研究では、放射線照射後のDNA損傷応答を生細胞イメージングにより時系列解析し、放射線照射後の細胞周期制御のダイナミクスを理解することを目的とした。  生細胞イメージングには、EGFPタグ付き53BP1遺伝子を導入した正常ヒト二倍体細胞を用い、タイムラプスシステムにより、放射線照射後の53BP1フォーカスの消長を追跡した。その結果、大半の初期フォーカスは照射後30分程度までに形成され、その後初期フォーカスが消失していくにつれて残存するフォーカスのサイズが増大することを確認した。しかしながら、新たなフォーカス形成は、照射後数時間から十数時間後まで様々な時間帯でも確認され、間接的に誘導されたDNA損傷もDNA損傷応答の活性化に寄与していることが明らかになった。さらに、照射数日後におよぶ遅延性のフォーカス形成は、放射線照射を受けた細胞で高頻度に確認されたことから、放射線による初期損傷に起因した持続的クロマチン変化が存在することが示唆された。  以上の結果から、放射線照射後のDNA損傷応答は、極めてダイナミックなプロセスであることが明らかになった。また、放射線照射により直接的に誘導されたDNA損傷に加えて、遅延的に誘導されるDNA損傷も放射線照射後の細胞周期制御に関与することが明らかになり、放射線に対する細胞のDNA損傷応答は、これらの時系列的な反応の集約として理解すべきであることが判明した。
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© 2010 日本放射線影響学会
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