抄録
ATM遺伝子は放射線により誘発されるDNA double strand breaksの修復の初期に働く遺伝子として知られている。ATMの主たる作用は細胞周期調節にある。ATM遺伝子の異常により、DNAの傷を修復することなく細胞周期が進行し、傷を修復することなくDNAの複製がおこることがATの感受性の原因のひとつと考えられている。一方、AT細胞は、対数増殖期のみならず、静止期においても高感受性を示すことが染色体解析から示されている。本研究では、静止期におけるATMの役割を検討する目的で、照射後にカフェインを作用させて生存率および染色体損傷解析を行った。静止期にある正常細胞および ATヘテロ接合体の細胞にX線照射を行い、カフェインを24時間作用させ、その染色体異常をFISH法により解析した。結果、正常細胞においても、ATヘテロ細胞においても2倍以上の染色体損傷、特に誤修復が誘導され、ATMは静止期では修復(NHEJ)の正確性に関与している可能性が示唆された。ATヘテロ接合体の細胞の中には、正常細胞よりも強くカフェインに増感されるものがあり、ATM抑制する方法により、ヘテロ接合体細胞の一部はスクリーニングできる可能性があると考えられた。