抄録
老化様増殖停止(SLGA)は、付着系の細胞における放射線誘発細胞死の主要な経路である。SLGAの誘導がチェックポイント機構の持続的活性化に依存している正常細胞に対し、癌細胞ではこの経路に加えて、細胞分裂期におけるマイトティック・カタストロフィ(MC)の誘導を経てSLGAが誘導される経路が存在する。チェックポイント機構の早期解消が起因となるMC誘導癌細胞で、不可逆的増殖停止を特徴とするSLGAがどのようなメカニズムで生じているのか?本研究では、生細胞における細胞周期ライブイメージングを可能にするFUCCIシステムを導入したヒト乳癌細胞株MCF-7を樹立し、SLGA誘導過程における細胞周期解析を行った。
G1期照射によってMCが誘導された約4割の細胞群の中で、照射後平均6時間以内にS/G2期へ移行した場合にその誘導頻度が最も高く、MC誘導後はG1期で長時間留まっていた。残り6割のMCが誘導されなかったG1期照射群では、(1)照射後からG1期に留まり続けた細胞群、(2)一旦、S/G2期へ移行後、分裂期の形態を示さずに直接G2期からG1期へ進行、すなわち分裂期を迂回した後に、そのままG1期に留まり続けた細胞群、の2つ経路が示された。同様に、G2期照射でも約4割の細胞群でMCが誘導され、(1)一時的なG2期進行遅延後に分裂期へ進行することによるMCの誘導、(2)分裂期を迂回してG1期へ移行後、S/G2/分裂期通過によるMCの誘導、の2つの経路が示されたが、いずれの場合もMC誘導後に長時間G1期に留まっていた。また、G2期照射によってMCが誘導されなかった全ての細胞が分裂期を迂回してG1期に進行した後、そのまま細胞周期を停止し続けた。以上の結果から、ヒト乳癌細胞では複数の経路を経た後、最終的に細胞周期がG1に留まるようになり、これがSLGAの誘導につながることが明らかになった。