抄録
【目的】アポトーシスを引き起こすシグナル伝達経路において、細胞に由来する活性酸素種(ROS)が重要であることが数多く報告されている。当研究室では、X線照射後数時間で細胞内ROSが増加し、これがミトコンドリアからのシトクロムc放出に関与していることを報告している。さらに前回大会では、このX線照射により誘導される細胞内ROS上昇がミトコンドリアの機能亢進によるものであることを示唆する結果を発表した。本研究では、そのROS生成機構のさらなる詳細について明らかにすることを目的に、X線照射された各種培養細胞株におけるミトコンドリア機能について酸素消費率を中心に検討を行った。
【方法】ヒトあるいはマウス由来培養細胞株(A549、HeLa、MKN45、MeWo、NIH3T3)を使用し、X線は10 Gyを照射した。細胞内ROS量はDCFDAまたはMitoSOX Redを用い、フローサイトメーターにて測定した。酸素消費率は、酸素プローブであるLiNc-BuOを用い、X-band ESRにより計測した。細胞内ミトコンドリア含量は、MitoTracker Green FMを用いたミトコンドリア膜量の測定とリアルタイムPCRによるミトコンドリアDNA量の測定により評価した。
【結果】X線照射によりミトコンドリアに由来するROS生成の上昇が、今回検討したすべての細胞株において観察された。次に、ミトコンドリア電子伝達系機能の指標として酸素消費率を測定したところ、X線照射による酸素消費率の上昇もまたすべての細胞株において観察され、X線照射によるミトコンドリア機能亢進が普遍的な現象であることが示唆された。また、X線照射はミトコンドリア電子伝達系Complex Iの活性化を引き起こした一方で、細胞内ミトコンドリア含量の増加を引き起こすことが明らかとなった。以上の結果から、X線照射によりミトコンドリア電子伝達系が活性化する一方で、細胞あたりのミトコンドリア含量の増加が起こり、その結果細胞あたりの酸素呼吸が増加することがX線照射によるROS生成の上昇に寄与していることが示唆された。