抄録
電離放射線は生体内の水分子に作用し、活性酸素を生じる。生じた活性酸素種 (ROS) はDNA、タンパク質、脂質を非特異的に酸化し、細胞障害を引き起こす。そのため、生じたROSを速やかに除去、あるいは生じた障害を迅速に修復出来れば、電離放射線による細胞障害は低減する。
そこで本研究では、ROSを直接消去する働きのあるsuperoxide dismutase (SOD)、生じた細胞障害を修復し細胞内の酸化還元状態の維持に働く抗酸化酵素glutaredoxin (Grx) を過剰に発現させた細胞株に電離放射線 (γ線) 照射処理をし、細胞障害への影響を調べた。
その結果、細胞質局在性SOD1を過剰発現させた細胞株では放射線への抵抗性がみられなかったのにも関わらず、ミトコンドリア局在性のSOD2を過剰発現させた細胞株では放射線抵抗性であった。そこでDNAのDSB量を測定した。SOD2過剰発現株ではDSB量が減少していた。次に、放射線による他の酸化ストレス障害にSOD2高発現がどのように影響を及ぼすのかを調べた。タンパク質の酸化量、•O2-の分解産物であるH2O2によって発現が誘導されるタンパク質OXR1の発現量、細胞全体で発生する活性酸素量、さらに、ミトコンドリアの機能維持に関連する形態における変化を測定したところ、その全てにおいてSOD2高発現による抑制効果がみられた。
ミトコンドリアは細胞内代謝により発生したROSに常にさらされている、ミトコンドリア局在型SOD (SOD2)の高発現で放射線作用に対する抑制効果が観察できた、以上のことからミトコンドリアに局在している抗酸化酵素は細胞内の恒常性維持、細胞の生存等に特に重要であると考えられる。そこで、同様にミトコンドリアに局在するGrx (Grx2) 過剰発現の放射線細胞障害への影響を調べた。この結果も合わせて報告する。