抄録
原爆被爆者において放射線ひばくが関係したと考えられるT細胞恒常性の撹乱が観察されている。今回、免疫防御や炎症に働く能力を持つTH1, TH2, TC1, TC2細胞などのヘルパーおよびキラーT細胞サブセット(それぞれTHおよびTC) に及ぼす年齢、性差、ならびに放射線量の影響を検討した。AHS協力者3,800名より供与された末梢血リンパ球をフローサイトメトリーにて測定した。肝炎ウイルスがこれらのT細胞サブセットの割合に強く影響していたので(未発表データ)、HBs抗原あるいはHCV抗体が陽性であった300名のデータを除いて解析を行った。その結果、TH1 および TH2 細胞の割合はいずれも年齢および放射線量とともに増加していた。また、TH1/TH2比においては年齢および女性で低下がみられたが放射線量の影響はなかった。一方、TC1 および TC2 細胞の割合は年齢や女性でそれぞれ増加および低下していたが、いずれにおいても放射線量の影響はみられなかった。以上の結果はTH1/TH2 あるいは TC1/TC2 バランスと放射線の関連性を示唆しないが、原爆放射線がTHの機能的分化に影響を与えて被爆者の炎症性サイトカインの産生を亢進したという仮説を支持する。