抄録
一般に腫瘍組織中には低酸素細胞が含まれており、放射線抵抗性の原因と考えられている。これは酸素効果によるためと考えられている。一方、細胞が低酸素状態下に置かれると低酸素誘導因子HIF1αが誘導され、HIF1αは転写因子であり、HIF1αの過剰な発現は転写因子活性の増加により腫瘍成長を促進させ、さらにHIF1αは転写因子の作用だけでなく、HIF1自α体が放射線抵抗性に関与すると考えられているが詳細は明らかにされていない。そこで本研究では、低酸素状態で誘導されるHIF1αの放射線抵抗性への関与を解析した。
大気酸素状態と低酸素状態でのX線照射後の細胞生存率を比較すると、低酸素状態で放射線抵抗性を示した。また、HIF1α自体の放射線抵抗性への関与を解析するため、siRNAによるHIF1αをノックダウンした細胞を作成し、低酸素状態でX線照射した。その結果、HIF1αのノックダウン細胞は大気酸素状態の細胞より放射線抵抗性を示したが、低酸素状態の細胞に比べ放射線感受性を示した。この結果からHIF1α自体が放射線抵抗性に関与することが考えられた。HIF1α自体の放射線抵抗性メカニズムを解明するため、X線照射後のDNA損傷とその修復への関与を解析した。大気酸素状態と低酸素状態においてX線照射後のDNA損傷を評価したところ、低酸素状態でより高い修復率を示し、低酸素状態で誘導、蓄積されるHIF1αがDNA損傷修復に関与することが考えられた。次に、HIF1αがDNA損傷修復のどの過程に関与するかを検証するため、DNA修復の主要分子とHIF1αとの相互作用を調べた。低酸素状態で誘導されたHIF1αを免疫沈降後に非相同末端結合修復に関わるKu(Ku70、Ku80)と相同組換え修復に関わるRad51についてウエスタンブロットを行ったところ、Kuのバンドは観察されたが、Rad51のバンドは認められなかった。これらより、HIF1αはKuと相互作用し、非相同末端結合に関与すると考えられた。