抄録
未分化ES細胞の細胞周期は、体細胞に比べG1,G2期が短く大半をS期に費やすという特徴的なパターンを示すが,これを保証する分子機構及びその全能性維持との関連に関しては大部分未解明である。我々はマウスES細胞でCdc6,ASK(Cdc7活性化subunit),CyclinA2,CyclinB1が大量に発現している事,分化誘導により顕著に低下する事を見い出した。転写レベルの活性化はこれらの因子のpromoter領域のヒストンアセチル化の亢進と呼応する。ES細胞ではubiquitin ligase APCの活性阻害因子Emi1が大量発現している。Emi1の発現はE2Fにより制御される。Emi1を抑制すると, APC活性が回復する為にCyclin A, B, ASKやGemininのタンパク質量が減少した。又、同時に、CyclinD1の発現、非リン酸化型Rbの出現など、G1期様の特徴が検出された。細胞周期可視化marker Fucciを用いた解析でもG1期の出現が示唆された。以上の結果から,未分化ES細胞特有の細胞周期制御因子の発現profile及び特徴的な細胞周期進行は,構成的に活性化しているE2F転写因子による転写促進とEmi1の大量発現によるタンパク質の安定化がもたらすCdk活性化、E2F活性化というpositive feedback loopによるというモデルを提出した。現在Emi1の発現抑制が全能性あるいは分化マーカー遺伝子の発現に及ぼす影響,大量発現がES細胞分化誘導に及ぼす影響を解析している。細胞周期進行の操作による幹細胞の増幅や分化の制御の可能性についても論じたい。